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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)22号 判決

大阪府寝屋川市大利町38番17号

原告

有限会社ユア開発

同代表者代表取締役

内田清人

同訴訟代理人弁理士

北村修

鈴木崇生

室之園和人

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

入交孝雄

中村友之

関口博

井上元廣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第9113号事件について平成4年12月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年11月15日、名称を「薄板状体搬送機構」(後に「遊技設備」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたが、平成1年3月14日、拒絶査定を受けたので、同年5月18日、審判を請求した。特許庁は、同請求を平成1年審判第9113号事件として審理した。上記特許出願は、平成3年6月7日、出願公告(特公平3-38183号)されたが、同年9月3日、特許異議申立された。特許庁は、平成4年12月24日、上記特許異議申立は理由がある旨の決定をなすとともに、「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決をなし、同謄本は、平成5年2月12日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

複数の遊技台(A)を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台(A)の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体(a)を前記遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機(B)が設けられているとともに、前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機(B)の各々から送り出される偏平体(a)を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置(D)が設けられている遊技設備であって、前記挟持搬送装置(D)の挟持搬送路が複数の搬送ユニット(d)を前記遊技台列に沿って連結して一連に構成され、搬送ユニット(d)による偏平体(a)の通過を検出する検出手段(19)、(20)と、前記検出手段(19)、(20)による検出結果に基づいて当該検出手段(19)、(20)が設けられている搬送ユニット(d)での偏平体(a)の搬送状態を表示する表示部(21又は22又は23)とが設けられていることを特徴とする遊技設備(別紙図面1参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  引用例1の記載

実公昭56-30943号公報(以下「引用例1」という。)には、「複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、硬貨を前記遊技台列前面側から受け入れてその平面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機が設けられているとともに、前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機の各々から送り出される硬貨を受け取ってその平面が上下方向に沿う姿勢で転動させ、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置が設けられている遊技設備」についての発明が記載されている(別紙図面2参照)。

(3)  本願発明と引用例1記載の発明との対比

〈1〉 一致点

引用例1記載の発明における「硬貨」は本願発明の「偏平体」に相当し、引用例1記載の発明における「転動させる」ことも搬送する一形態であり、引用例1記載の発明における「集合路」は、搬送路のある搬送装置であるといえるから、両者は、「複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体を前記遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機が設けられているとともに、前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機の各々から送り出される偏平体を受け取ってその平面が上下方向に沿う姿勢で搬送し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置が設けられている遊技設備」である点で一致する。

〈2〉 相違点

(a) 相違点1

偏平体の搬送について、本願発明では「偏平体を挟持搬送しており、その搬送装置が複数の搬送ユニット(d)を前記遊技台列に沿って連結して一連に構成されている挟持搬送路を有する挟持搬送装置」であるのに対し、引用例1記載の発明では「偏平体である硬貨を転動させて搬送しており、その搬送装置は遊技台列に沿って一体に構成されている集合路」である点

(b) 相違点2

本願発明では、「搬送ユニット(d)による偏平体の通過を検出する検出手段と、前記検出手段による検出結果に基づいて当該検出手段が設けられている搬送ユニットでの偏平体の搬送状態を表示する表示部とが設けられている」のに対し、引用例1記載の発明では、そのような検出手段や表示部が設けられていない点

(4)  相違点についての検討

〈1〉 相違点1について

特開昭53-3399号公報(以下「引用例2」という。)には、「複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体としての紙幣を前記遊技台列前面側から受け入れてその紙面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に取り込み用ローラにより挟持して送り出し可能な遊技用貸機(B)が設けられており、取り込まれた紙幣は、特定位置まで搬送されている遊技設備」についての発明が記載されており(別紙図面3参照)、特開昭53-13998号公報(以下「引用例3」という。)には、「偏平体であるカードをその面が上下方向に沿う姿勢で挟持して搬送する搬送装置が複数の搬送ユニットを搬送装置の長さ方向に沿って連結して一連に構成されている挟持搬送路を有する挟持搬送装置」の発明が記載されている(別紙図面4参照)。

そして、引用例2記載の発明は本願発明と同一技術分野に属するものであり、引用例3記載の発明はカード類を扱う広範な分野にそのまま応用可能であることはその構成より明らかであるから、これらの発明を引用例1記載の発明に組み込むことに困難はなく、当業者にとって容易になし得たものと認められる。

〈2〉 相違点2について

特開昭55-356713号公報(以下「引用例4」という。)には、「複数の紙幣挟持搬送ベルトを連設した紙幣の搬送路において、複数の適宜箇所に紙幣の通過を検出する検出手段(8a~8d)を設け、この検出手段による検出結果に基づいて当該検出手段が設けられている搬送装置での紙幣の搬送状態を表示する表示部とを設けることにより、搬送中のトラブルを早期に解消して、能率良く円滑に搬送するようにする」発明が記載されている(別紙図面5参照)。そして、このような発明は引用例1の搬送装置にも適用可能であることは明らかであるから、相違点2も当業者が容易になし得たものと認められる。

〈3〉 そして、これら相違点を総合してみても構成上の困難性は認められないし、格別顕著な効果も認められない。

(5)  したがって、本願発明は、引用例1ないし4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできない。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由中、(1)(本願発明の要旨)、(2)(引用例1の記載)(但し、合流搬送する搬送装置が設けられている点を除く)、(3)〈2〉(相違点)(但し、硬貨を偏平体であるとしている点及び転動を搬送としている点を除く)、(4)のうち、引用例3及び4の記載は認め、その余は争う。

(2)  審決は、本願発明と引用例1記載の発明との一致点を誤認し、相違点を看過し(取消事由1)、さらに、引用例2の発明を誤認したことにより、本願発明と引用例1記載の発明との相違点1、2に対する判断を誤り(取消事由2及び3)、本願発明の奏する格別の作用効果を看過した(取消事由4)結果、本願発明の進歩性を否定したものであるから、取り消されるべきである。

〈1〉 本願発明と引用例1記載の発明との一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1)

(a) 審決は、「引用例1記載の発明における『硬貨』は本願発明の『偏平体』に相当する」と認定(甲第1号証4頁5行ないし6行)したが誤りである。

本願発明の明細書(甲第2号証の1)の特許請求の範囲に記載された「偏平体」とは、発明の詳細な説明において、その実施例として、「硬貨のようには、取扱い得ない、取扱いにくい可撓性のある紙幣もしくは紙製、プラスチックス製カード」とのみ記載し、「偏平体」には硬貨を含まないことを明確に定義している。

このことは、本願発明の明細書(甲第2号証の1)の以下の記載から明らかである。

(ⅰ) 「従来の遊技設備では、硬貨の投入で作動する自動玉貸機をパチンコ遊技台間に設け、パチンコ遊技台列背面側に自動玉貸機から落下排出された硬貨を受け止めてパチンコ遊技台列一端側に搬送する搬送装置を設けて、投入硬貨を能率良く回収できるようにしたものがあるが(例えば、実開昭52-160482号、実開昭52-146375号公報参照)」(2欄10行ないし16行)

(ⅱ) 「紙幣の投入で作動する自動玉貸機等の遊技用貸機を遊技台間に設けた遊技設備では」(同欄16行ないし18行)

(ⅲ) 「紙幣が硬貨に比べて大形でかつ薄いものであり、しかも軽くて可撓性があるという特性から硬貨のようには取扱にくいので」(同欄18行ないし21行) (ⅳ) 「遊技用貸機の各々に金庫(スタッカー)を備えておき、各遊技用貸機において受け入れた紙幣はその受け入れた遊技用貸機の金庫に収納しておくことが行われている(特開昭53-3399号公報参照)」(同欄21行ないし25行)

(ⅴ) 「本発明が対象とする偏平体aとしては、紙幣の他に、紙製、プラスチックス製カード等の各種のカードを挙げることができる。」(10欄11行ないし13行)

(b) 審決は、「『転動させること』も搬送の一形態である」と認定(甲第1号証4頁7行ないし8行)し、引用例1記載の発明において、硬貨を転動させることと本願発明における「搬送装置」と一致すると認定したが誤りである。

引用例1には、「円形」である「硬貨の転がり特性」を利用した「台間玉貸機における硬貨の回収手段」が開示されているにとどまるものであって、搬送装置については開示されていない。

(c) したがって、本願発明は硬貨を含まない可撓性のある紙幣もしくは紙製、プラスチックス製カード等の偏平体を対象とする搬送装置が設けられている遊技設備であるのに対し、引用例1記載の発明は硬貨の回収手段が設けられている遊技設備である点で相違する。

しかるに、審決は、上記相違点を看過した。

〈2〉 相違点1についての判断の誤り(取消事由2)

(a) 引用例2(甲第4号証)記載の発明(本願発明の明細書に従来技術として記載されている。)の認定の誤り

審決は、引用例2には「遊技台列背面側に取り込み用ローラにより挟持して送り出し可能な遊技用貸機(B)が設けられており、取り込まれた紙幣は、特定位置まで搬送されている遊技設備」についての発明が記載されていると認定したが誤りである。

引用例2(甲第4号証)の「遊技客が1000円札、又は500円札37を自動玉貸機31に紙幣投入口111より投入すると、その紙幣は自動玉貸機31において、取込用ローラ251、261により内部に取込まれて…紙幣37が本物の500円札又は1000円札であればその紙幣37を金庫241に送出し」(2頁左下欄19行ないし右下欄17行)との記載、及び、第3図並びに第4図における金庫241を貸機内部(下部)に設けて、取り込んだ紙幣を下部金庫に落し込むことの図解からみて、引用例2には、「遊技用貸機の各々に金庫(スタッカー)を備えておき、各遊技用貸機において受け入れた紙幣はその受け入れた遊技用貸機の金庫に収納しておくことが行われていること」が記載されているにすぎない。

しかるに、審決は、引用例2には、「遊技台列前面側から受け入れた紙幣を、遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機」が記載されていると誤認し、引用例2には、本願発明の、台間貸機における紙幣回収手段に関する、「偏平体(a)を前記遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機(B)が設けられているとともに、前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機(B)の各々から送り出される偏平体(a)を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置(D)」の構成要件のうちの「背面側に送り出した紙幣を背面側で受け取って(台列に沿って)特定位置まで搬送(合流搬送)する」構成が開示されていると誤認した。

(b) 相違点1についての判断の誤り

前記〈1〉のとおり、本願発明は硬貨を含まない可撓性のある紙幣もしくは紙製、プラスチックス製カード等の偏平体を対象とする搬送装置が設けられている遊技設備であるのに対し、引用例1記載の発明は硬貨の回収手段が設けられている遊技設備(硬貨専用型の台間玉貸機)である点で相違し、また、前記(a)のとおり、引用例2には、「遊技用貸機の各々に金庫(スタッカー)を備えておき、各遊技用貸機において受け入れた紙幣はその受け入れた遊技用貸機の金庫に収納しておくことが行われていること」(貸機内部保留((金庫))型の紙幣回収手段)のみ開示され、「背面側に送り出した紙幣を背面側で受け取って(台列に沿って)特定位置まで搬送(合流搬送)する」構成が開示されていないのであるから、紙幣回収手段についての開示のない引用例1記載の硬貨専用の台間玉貸機に引用例2記載の貸機内部保留(金庫)型の紙幣回収手段を組み込んでも、台間玉貸機の内部(下部)に設けた金庫に、遊技台列前面側から受け入れた硬貨、紙幣を保留する硬貨、紙幣併用型の台間玉貸機の構成になるにすぎない。

(c) 本願発明は、従来技術の「各遊技用貸機に投入された紙幣を回収するに際して、回収者が各遊技用貸機の前面まで一々移動して金庫内の紙幣を回収しなければならず、一連の遊技台列についてだけみても各遊技用貸機からの紙幣の回収を能率良く行なうことができないのはもとより、遊技台の稼働中に金庫が満杯になった時には遊技者の間に入り込んで回収しなければならない場合もあり、遊技者に対する配慮にも欠けるものである。」(甲第2号証の1、3欄3行ないし12行)との欠点を解消するという格別の作用効果を奏するのに対し、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み込んでも、このような作用効果を奏するものではない。

(d) 次に、引用例記載3の発明は、「マイクロフィルムあるいはその他の情報カード類のベルト式搬送装置に関する」(甲第5号証1頁右下欄16行ないし17行)ものであって、本願発明のような遊技用台間玉貸機の紙幣挟持搬送装置への転用を示唆する記載はないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み込んだ硬貨、紙幣併用型の台間玉貸機に引用例3記載の発明を組み込むことは当業者にとって容易に想到することではない。

(e) 以上のとおり、引用例1記載の発明に、引用例2及び3記載の発明を組み込んで、本願発明の「偏平体を挟持搬送しており、その搬送装置が複数の搬送ユニット(d)を前記遊技台列に沿って連結して一連に構成されている挟持搬送路を有する挟持搬送装置」の構成にすることは当業者にとって容易に想到することではない。

したがって、審決の相違点1についての判断は誤りである。

〈3〉 相違点2についての判断の誤り(取消事由3)

(a) 前記〈1〉のとおり、引用例1には、硬貨の転がり特性を利用した「台間玉貸機における硬貨の回収手段」が開示されているにとどまるものであって、搬送装置については開示されていないのであるから、紙幣搬送装置に関する引用例4記載の発明を引用例1記載の発明に適用することは当業者が容易になし得るものではない。

〈4〉 格別の作用効果の看過(取消事由4)

本願発明の特徴構成は、

A 複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体を前記遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機が設けられているとともに、

B 前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機の各々から送り出される偏平体を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置が設けられている遊技設備であって、

C 前記挟持搬送装置の挟持搬送路が複数の搬送ユニットを前記遊技台列に沿って連結して一連に構成され、

D 搬送ユニットによる偏平体の通過を検出する検出手段と、前記検出手段による検出結果に基づいて当該検出手段が設けられている搬送ユニットでの偏平体の搬送状態を表示する表示部とが設けられていることにある。本願発明は上記構成から次のとおりの格別の作用効果を奏する(甲第2号証の1、4欄27行ないし5欄23行、同号証の2)。

(作用)

(a) A、Bの構成により、遊技用貸機の各々から送り出される偏平体を手間をかけず、しかも遊技台列の背面側に沿っての搬送で遊技者の邪魔にならずに、容易に回収できるのであるが、

(b) 殊に偏平体をその板面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機を設けて、偏平体を遊技用貸機から遊技台列背面側の特定位置までその板面が上下方向に沿う同じ姿勢で挟持搬送する挟持搬送装置により一連に搬送するから、搬送ベルト上で偏平体を載置搬送する場合に比べて、遊技用貸機からその板面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列背面側に送り出された偏平体を挟持搬送装置に受け継ぎさせ易く、偏平体が滞留しにくい状態で円滑に搬送でき、

(c) しかも、その板面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列背面側に送り出す幅の狭い遊技用貸機を遊技台間に設けることにより、所定台数の遊技台列の長さを短くできることと、板面が上下方向に沿う姿勢で、遊技台列の背面に沿って挟持搬送装置を配設したことにより、板面を水平姿勢で搬送する装置に比べて、狭いスペースでも効率良く搬送でき、全体として、所定台数の遊技台列の幅及び長さを短くできるので、所定スペースの遊技場面積を有効に利用、又は、所定スペースの遊技場に対してより多くの遊技台を設置してより多くの遊技客をよぶことができる。

(d) Cの構成により、搬送ユニットの組み合わせを変更することで、挟持搬送装置の挟持搬送路の長さを簡便に変更できる。

(e) Dの構成により、搬送ユニットで搬送される偏平体の通過を監視できるので、トラブルが発生した場合にはそのトラブルが発生している搬送ユニットに迅速に対応して早期にトラブルを解消し易い。

(f) Bの構成により、板面が水平方向に沿う姿勢の偏平体を上下方向から挟持する場合に比べて、偏平体が撓みにくく、当該偏平体をその板面が広く展開した姿勢で搬送し易いから、Dの検出手段で偏平体の通過を検出する構成上好都合である。

(発明の効果)

前記(a)、(b)の作用により、遊技用貸機に投入された偏平体を遊技者の邪魔にならず、しかも前記(e)、(f)の作用により、搬送中にトラブルが発生してもこれを早期に解消して、能率良く円滑に搬送して確実に回収できるものでありながら、前記(c)の作用により、搬送装置及び遊技用貸機の設置スペースを小さくでき、所定スペースの遊技場面積を有効に利用、又は、所定スペースの遊技場に対してより多くの遊技台を設置してより多くの遊技客をよぶことができ、前記(d)の作用により、搬送装置の製作、運搬が簡便に行えるから、全体として設備コストの高騰を抑制できる。

しかるに、審決は、本願発明の奏する上記の作用効果を看過して、「格別顕著な効果も認められない。」との誤った判断をなしたものである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

2(1)  取消事由1について

〈1〉 本願発明は、「偏平体」に関し、その材質や外形について特に定義しておらず、「偏平」の一般的な意味としては、上下面の平坦な形態を表現するものであり、引用例1記載の発明の「硬貨」はその形状から「偏平体」であるということができ、本願発明における「偏平体」としての要件を満たすものである。

本願発明における「偏平体」は何ら限定されたものではなく、その明細書中にも、硬貨を含まないという記載はない。

本願明細書には、紙幣を用いる自動玉貸機でも硬貨を用いる自動玉貸機と同様の回収を行なうことを課題としていることが記載され(甲第2号証の1、3欄13行ないし4欄3行)、また、「本発明が対象とする偏平体aとしては、紙幣の他に、紙製、プラスチックス製カード等の各種のカードを挙げることができる。」(同10欄11行ないし13行)として例示するに止まる。

引用例1記載の発明の「硬貨」は、本願発明の遊技設備の構成である、偏平体(a)が、遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列背面側に送り出し可能であること、及び前記遊技台列背面側で遊技用貸機(B)の各々から送り出される偏平体(a)を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送するという搬送形態に適うものであることは明らかである。

なお、本願発明において、搬送装置において、遊技用貸機から「偏平体」を受け取る構造について特定されていないのであり、またその搬送形態も「偏平体」を挟持搬送するというに止まり、「偏平体」に可撓性を必要とするような格別の構成を有していない。

仮に、本願発明の「偏平体」に「硬貨」が含まれないとしても、審決は、引用例1記載の発明の認定において、「硬貨」の形態に基づいて認定し、同発明と本願発明との対比において、引用例1記載の発明では、硬貨を転動させることも搬送する一形態であるとして、「硬貨」及び「偏平体」のそれぞれの特定の搬送形態の相違を除外して一致点を認定し、相違点1及び2のついての判断において、引用例2ないし4記載の発明は、いずれも偏平体たる紙幣もしくはカードをその対象とするものであると認定しているものであって、審決の相違点についての判断は、引用例1記載の発明における「硬貨」が「偏平体」に相当するという前提に基づくものではない。したがって、審決の上記認定の誤りは、結論に影響を及ぼすものではない。

〈2〉 引用例1記載の発明において、硬貨を「転動させる」ことも、本願発明において、「挟持」搬送することも、両者において意図する遊技台列前面から受け入れた硬貨あるいは偏平体を遊技台列背面側の搬送路で遊技台列一端の回収箇所に送り込む「搬送」であることには変わりはない。

〈3〉 したがって、審決の一致点の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

〈1〉 引用例2記載の発明について

引用例2(甲第4号証)に、「その紙幣は自動玉貸機31において、取込用ローラ251、261により内部に取込まれて…金庫241に送出し」(2頁左下欄19行ないし右下欄17行)と記載され、第2、第3図の記載にあるように、引用例2記載の玉貸機は、複数の遊技台の間にあって、紙幣の投入する向きはその紙面が上下方向に沿う姿勢であり、取込用ローラにより内部に取り込まれて前面側より背面側に向けて送られるものである。この後、紙幣はさらに搬送されて金庫に回収されるが、これは特定位置としての回収箇所の相違であって、ここで玉貸機は、遊技台列前面側より紙幣を取り込み、次の行き先に向けて送り出すという作用をなすものである。

以上によれば、審決の、引用例2には「遊技台列背面側に取り込み用ローラにより挟持して送り出し可能な遊技用貸機(B)が設けられており、取り込まれた紙幣は、特定位置まで搬送されている遊技設備」についての発明が記載されているとの認定に誤りはない。

〈2〉 相違点1の判断について

(a) 引用例1及び2記載の各発明を組み合せたものは、偏平体を対象とする台間玉貸機を備え、偏平体を特定位置まで合流搬送する遊技設備であって、硬貨、紙幣併用型の台間玉貸機ではない。

(b) 引用例3記載の発明は、「偏平体であるカードをその面が上下方向に沿う姿勢で挟持して搬送する搬送装置が複数の搬送ユニットを搬送装置の長さ方向に沿って連結して一連に構成されている挟持搬送路を有する挟持搬送装置」であって、本願発明の複数の搬送ユニットからなる搬送路の構成と差異はない。複数の搬送ユニットから構成することにより容易に所定の長さの搬送路となし得るということも引用例3記載の発明の示唆するところであって、その作用も本願発明と差異はない。また、本願発明において、挟持搬送装置を合流搬送するべくどのように構成するかは規定されていないのであるから、引用例3記載の発明の搬送装置の採用において、この点に関する構成の適否をいうことはできない。したがって、引用例1記載の発明において、かかる搬送路を採用することに困難はない。

(c) 以上によれば、審決の引用例2及び3記載の各発明を引用例1記載の発明に組み込むことに困難はなく、当業者にとって容易になし得たものとの判断に誤りはない。

(3)  取消事由3について

引用例4記載の発明の紙幣の通過を検出する検出手段並びにそれの搬送状態を表示する表示部は、これら紙幣の搬送時におけるジャム発生、すなわち紙幣の搬送途中の引っ掛かり等のトラブルに対して報知し、速やかな対策を可能とするものであって、本願発明において意図するところもこれと同じであり、引用例1記載の発明に適用されるべき搬送路は、引用例3記載の発明の「偏平体」であるカードの搬送装置から構成されるものであって、本願発明における構成と変わりはないのであるから、その採用に困難があるとはいえない。

したがって、審決の引用例4記載の発明は引用例1の搬送装置にも適用可能であることは明らかであるから、相違点2も当業者が容易になし得たものとの判断に誤りはない。

(4)  取消事由4について

原告主張の本願発明の作用のうち、(a)は、遊技台列背面側に配置した搬送路レイアウトによるものであって、搬送手段如何によらないものであるから、同じく遊技台列背面側に搬送路を配置した引用例1記載の発明のレイアウトにおいても奏する作用であり、(b)は、偏平体をその板面が上下方向に沿う姿勢で玉貸機から搬送路に至るまで一貫して取り扱うという搬送の仕方により、途中で偏平体の姿勢を変えないことによる効果であるから、偏平体である紙幣もしくはカードを同じ姿勢で搬送する引用例2記載の玉貸機及び引用例3記載の搬送装置を組み合せてなるとき、このような効果は構成上当然の結果であり、(c)は、玉貸機及び搬送装置の設置スペース上の利点であるが、それぞれ引用例2記載の玉貸機の紙幣を上下方向に沿う姿勢で投入する構造及び引用例3記載の挟持搬送する構造に固有のものであり、本願発明には格別の構造はなく、(d)は、引用例3記載の発明に示唆されるとおり、搬送ユニット固有の作用であって、本願発明における搬送ユニット独自のものとはいえず、(e)は、引用例4記載の発明にも示唆されるところであり、本願発明における作用と差異はなく、(f)については、引用例1記載の発明に組み合わされるべき引用例3記載の発明における偏平体の搬送時の姿勢は、本願発明と同じく上下方向に挟持するものであるから、本願発明の作用と差異はない。

したがって、上記作用(a)ないし(f)は、いずれも引用例1ないし4記載の発明において示唆され、あるいは、それらから自明のものであるから、本願発明において、顕著な効果ということはできない。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

(2)  審決の理由中、引用例1の記載(但し、合流搬送する搬送装置が設けられている点は除く。)、引用例3及び4の各記載並びに相違点1、2(但し、硬貨を偏平体であるとしている点及び転動を搬送としている点を除く。)は当事者間に争いはない。

2  本願発明の概要

甲第2号証の1及び2(特公平3-38183号公報、平成4年6月26日付け手続補正書。以下、総称して「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の項には、次のとおりの記載があることが認められる。

「〔従来の技術〕従来の遊技設備では、硬貨の投入で作動する自動玉貸機をパチンコ遊技台間に設け、パチンコ遊技台列背面側に自動玉貸機から落下排出された硬貨を受け止めてパチンコ遊技台列一端側に搬送する搬送装置を設けて、投入硬貨を能率良く回収できるようにしたものがあるが(例えば、実開昭52-160482号、実開昭52-146375号公報参照)、紙幣の投入で作動する自動玉貸機等の遊技用貸機を遊技台間に設けた遊技設備では、紙幣が硬貨に比べて大形でかつ薄いものであり、しかも軽くて可撓性があるという特性から硬貨のようには取扱にくいので、遊技用貸機の各々に金庫(スタッカー)を備えておき、各遊技用貸機において受け入れた紙幣はその受け入れた遊技用貸機の金庫に収納しておくことが行われている(特開昭53-3399号公報参照)。〔発明が解決しようとする課題〕従って、従来の紙幣の投入で作動する遊技用貸機を遊技台間に設けた遊技設備によれば、各遊技用貸機に投入された紙幣を回収するに際して、回収者が各遊技用貸機の前面まで一々移動して金庫内の紙幣を回収しなければならず、一連の遊技台列についてだけみても各遊技用貸機からの紙幣の回収を能率良く行なうことができないのはもとより、遊技台の稼働中に金庫が満杯になった時には遊技者の間に入り込んで回収しなければならない場合もあり、遊技者に対する配慮にも欠けるものである。そこで、従来の硬貨の投入で作動する自動玉貸機をパチンコ遊技台間に設けた遊技設備と同じように、遊技台前面側から受け入れた紙幣を遊技台列背面側に送り出す遊技用貸機を遊技台間に設け、各遊技用貸機から送り出されてきた紙幣を遊技台列一端側の回収位置まで合流搬送する搬送装置を遊技台列の背面側に設けて、紙幣を遊技者の邪魔にならず、しかも能率良く回収できるようにすることが望まれるが、この場合、紙幣投入機から送り出される紙幣を、単にコンベヤ等の搬送装置の搬送面に不規則な姿勢で排出させて遊技台列一端側の回収位置まで合流搬送するだけでは搬送紙幣が搬送途中で滞留する等、搬送が不確実になり易く、また、不規則な姿勢で排出されてくる紙幣を搬送装置の搬送面に確実に受け止められるよう、搬送面の横幅が広い大型の搬送装置を設ける必要があり、搬送装置の据え付けスペースを遊技台列背面側に広く確保する必要があるから遊技台の据え付けスペースがその分少なくなるおそれがある。また、遊技台列の長さは遊技設備の設置場所やその配置によって異なるのが通例であるから、かかる遊技設備を設置するにあたって、各種長さの遊技台列に対応する寸法の搬送装置をその都度製作しなければならず、短い工期で遊技設備を完成させにくいとともに、搬送装置そのものが大型化するのでその運搬、据え付けにも多大の労力と手間を要し、全体として設備コストの高騰を招き易い欠点がある。本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、紙幣等の偏平体が備える特性を有効に活用して、遊技用貸機に投入された偏平体を遊技者の邪魔にならず能率良く円滑に搬送しながら確実に回収でき、しかも、設備コストの高騰を招きにくい遊技設備を提供することを目的とする。〔課題を解決するための手段〕上記課題を達成する為の本発明の特徴構成は、A 複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体を前記遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機が設けられているとともに、B 前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機の各々から送り出される偏平体を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置が設けられている遊技設備であって、C 前記挟持搬送装置の挟持搬送路が、複数の搬送ユニットを前記遊技台列に沿って連結して一連に構成され、D 搬送ユニットによる偏平体の通過を検出する検出手段と、前記検出手段による検出結果に基づいて当該検出手段が設けられている搬送ユニットでの偏平体の搬送状態を表示する表示部とが設けられていること」(甲第2号証の1、2欄9行ないし4欄24行)にある。

3  取消事由について

(1)  取消事由1について

〈1〉  原告は、本願明細書の特許請求の範囲に記載された「偏平体」とは、発明の詳細な説明において、その実施例として、「硬貨のようには、取扱い得ない、取扱いにくい可撓性のある紙幣もしくは紙製、プラスチックス製カード」とのみ記載し、「偏平体」には硬貨を含まないことを明確に定義していると主張する。

本願明細書の発明の詳細な説明の項には、たしかに、原告主張のとおり、(ⅰ)「従来の遊技設備では、硬貨の投入で作動する自動玉貸機をパチンコ遊技台間に設け、パチンコ遊技台列背面側に自動玉貸機から落下排出された硬貨を受け止めてパチンコ遊技台列一端側に搬送する搬送装置を設けて、投入硬貨を能率良く回収できるようにしたものがあるが(例えば、実開昭52-160482号、実開昭52-146375号公報参照)」(同2欄10行ないし16行)、(ⅱ)「紙幣の投入で作動する自動玉貸機等の遊技用貸機を遊技台間に設けた遊技設備では」(同欄16行ないし18行)、(ⅲ)「紙幣が硬貨に比べて大形でかつ薄いものであり、しかも軽くて可撓性があるという特性から硬貨のようには取扱にくいので」(同欄18行ないし21行)、(ⅳ)「遊技用貸機の各々に金庫(スタッカー)を備えておき、各遊技用貸機において受け入れた紙幣はその受け入れた遊技用貸機の金庫に収納しておくことが行われている(特開昭53-3399号公報参照)」(同欄21行ないし25行)、(ⅴ)「本発明が対象とする偏平体aとしては、紙幣の他に、紙製、プラスチックス製カード等の各種のカードを挙げることができる。」(10欄11行ないし13行)との記載があることが認められるが、上記(ⅰ)ないし(ⅳ)は、前記2で判示したところから明らかなように、〔従来の技術〕を説明するものである。そして、〔従来の技術〕では、従来の硬貨の投入で作動する自動玉貸機と紙幣の投入で作動する自動玉貸機の差異が説明されているが、偏平体の用語は用いられていない。また、上記(ⅴ)の記載は偏平体を例示するだけであって、硬貨を排除するものとまでは認められない。したがって、上記の各記載を根拠として、本願発明の「偏平体」に硬貨が含まれないということはできない。

しかし、前記2の〔発明が解決しようとする課題〕の項の記載によれば、本願発明の課題は、各々の自動玉貸機から投入された紙幣等の偏平体を、従来の硬貨を対象とする自動玉貸機と同じように遊技台列一端側の回収位置まで合流搬送し、遊技者の邪魔にならず能率良く回収することであると認められる。そうすると、本願発明の「偏平体」に硬貨が含まれるとすると、本願発明の課題と矛盾することになる。したがって、本願発明における「偏平体」には、「硬貨」は含まれないと解さざるを得ず、引用例1記載の発明における「硬貨」は本願発明の「偏平体」に相当するとした、審決の一致点についての認定は誤りである。

しかしながら、審決は、本願発明の「偏平体を挟持搬送しており、その搬送装置が複数の搬送ユニット(d)を前記遊技台列に沿って連結して一連に構成されている挟持搬送路を有する挟持搬送装置」である点と、引用例1記載の発明の「偏平体である硬貨を転動させて搬送しており、その搬送装置は遊技台列に沿って一体に構成されている集合路」である点を、相違点1として摘示しており、本願発明の「偏平体」と、引用例1記載の発明の「偏平体である硬貨」とを区別して認定し、それぞれの形状の相違から生じる「挟持」と「転動」による搬送方法の相違を実質的には相違点として認定して判断しているうえ、相違点1、2について、後記(2)及び(3)のとおり、引用例2ないし4記載の各発明がいずれも偏平体である紙幣もしくはカードをその対象とするものであるとの認定を前提として判断し、引用例1記載の発明における「硬貨」が「偏平体」に相当するとの前提に基づいて判断するものではないから、審決における前記認定の誤りは審決の結論を左右するものとは解されない。

〈2〉  原告は、「円形」である硬貨の「転がり特性」を利用して回収することは搬送とはいえないから、審決の「『転動させること』も搬送の一形態である」との認定は誤りであると主張する。

甲第3号証(実公昭56-30943号公報、引用例1)の、「本考案によればパチンコ機列内に所々配置されているどの自動玉売機にでも投入された硬貨は…夫々導出樋5で導出されて詰ることなく円滑に集合路6に落下し、集合路上を転動して回収タンクに集められ、容易に回収できるのである。」(4欄9行ないし14行)との記載によれば、引用例1記載の硬貨回収装置においては、自動玉売機に投入された硬貨は集合路に落下した後転動して回収タンクに集められるのであり、ここで「集められ」は一方からみれば「送られ」ることと同義であるから、自動玉売機に投入された硬貨は回収タンクに送られるということもできる。そして、その送られる形態が「円形」である硬貨の「転がり特性」を利用していても、導出樋から回収タンクまで送られることには変わりはない。

本願明細書(甲第2号証の1)の特許請求の範囲の「遊技用貸機(B)の各々から送り出される偏平体(a)を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する挟持搬送装置(D)」との記載によれば、本願発明において、送り出される偏平体を受け取ってその板面が上下方向に沿う姿勢で挟持し、前記遊技台列に沿って特定位置まで搬送するものであって、本願発明における「挟持搬送」も、引用例1記載の発明における転動による回収動作も、いずれも、偏平体あるいは硬貨を特定位置あるいは回収タンクまで送るものであって、搬送の一形態であると認められる。したがって、審決の「『転動させること』も搬送の一形態である」との認定に誤りはない。

次に、原告は、引用例1には、「台間玉貸機における硬貨の回収手段」が開示されているにとどまるものであって、搬送装置については開示されていないと主張するが、上記のとおり、本願発明の「挟持搬送」あるいは引用例1記載の発明の「転動」もいずれも搬送の一形態にすぎず、また、引用例1記載の発明の硬貨を転動させて回収タンクまで搬送する集合路は搬送路のある搬送装置といえるから、原告の上記主張は理由がない。

(2)  取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について

〈1〉  引用例1記載の発明について

原告は、引用例1には、合流搬送する搬送装置が設けられている点は記載されていないと主張する(前記のとおり、その余の審決摘示の引用例1の記載は当事者間に争いがない。)

前記(1)のとおり、引用例1の転動も搬送の一形態であり、集合路は搬送路のある搬送装置であると認められるところ、甲第3号証(引用例1)の、「本考案によればパチンコ機列内に所々配置されているどの自動玉売機にでも投入された硬貨は…夫々導出樋5で導出されて詰まることなく円滑に集合路6に落下し、集合路上を転動して回収タンクに集められ、容易に回収できるのである。」(4欄9行ないし14行)、「1はパチンコ機の列で、その列内には数台、例えば4台置きに自動玉売機2が配置されている。上記自動玉売機2は、夫々硬貨の投入口3…を機体の表面に有すると共に、裏側には投入口3に投入され…た硬貨を転動させて導出する導出樋5を有し、各導出樋5の下流側先端はパチンコ機列1に沿い、パチンコ機の裏側に傾斜させて設けた集合路に略々直角状に接続されている。」(2欄22行ないし31行)との記載によれば、引用例1には、硬貨の投入で作動する自動玉売機(本願発明の遊技用貸機に相当する。)を遊技台間に設け、自動玉売機から遊技台背面側に排出される硬貨を特定位置に設けた回収タンクへ合流搬送する搬送装置が開示されていると認められるから、「合流搬送する搬送装置が設けられている」点が記載されていると認められる。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

〈2〉  引用例2記載の発明について

原告は、審決の、引用例2には「遊技台列背面側に取り込み用ローラにより挟持して送り出し可能な遊技用貸機(B)が設けられており、取り込まれた紙幣は、特定位置まで搬送されている遊技設備」についての発明が記載されているとの認定は誤りであると主張する。

甲第4号証(特開昭53-3399号公報、引用例2)には、「各自動玉貸機31、32……には紙幣投入口111……から投入された紙幣を取込む取込用ローラ251、261……、この取込用ローラ251、261、……で取込んだ紙幣を検定する検定部271……、取込用ローラ251、261……で取込んだ紙幣をその正偽に応じて金庫241……又は紙幣投入口111……に送出する札戻し機構部281……、玉貸額指定釦121~211……による指定額に応じてパチンコ玉29をパチンコ玉取出口221……に送出する玉送出部301……、つり銭を貨幣返却口231……に送出するつり銭送出部311……、このつり銭送出部311……と玉送出部301……とを制御する制御部321……が設けられ、かつ紙幣の紙幣投入口111……への投入を検知して各部に検知信号を送る投入検知スイッチ331……が設けられている。」(2頁右上欄7行ないし左下欄2行)、「遊技客が1000円札又は500円札37を自動玉貸機31に紙幣投入口111より投入すると、その紙幣は自動玉貸機31において、取込用ローラ251、261により内部に取込まれ」(2頁左下欄19行ないし右下欄3行)、「自動玉貸機31において札戻し機構部281は信号線61によって鑑別機4から返送されてきた鑑別信号により、前述の紙幣37が本物の500円札又は1000円札であればその紙幣37を金庫241に送出し」(2頁右下欄14行ないし17行)との記載があることが認められ、また、同引用例の第4図の自動玉貸機31を示すと認められる破線内において、取込用ローラ251、261が相対して紙幣を挟持して取り込むように設けられ、金庫241が紙幣の方向を示す矢印とともに示されており、また第3図の自動玉貸機の正面図において縦長に開口された紙幣投入口が示されている。

以上によれば、引用例2には、「複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体としての紙幣を前記遊技台列前面側から受け入れてその紙面が上下方向に沿う姿勢で取り込み用ローラにより挟持して送り出し可能な遊技用貸機が設けられており、取り込まれた紙幣は、特定位置まで搬送されている遊技設備」についての発明が記載されていると認められる。

しかし、前記第4図からは、金庫が遊技台列の背面側にあるとは断定できず、取り込み用ローラで取り込まれた紙幣が、遊技台列背面側に送り出す構成は、引用例2には開示されていないと認められる。

そうすると、審決の引用例2記載の発明についての認定中、「遊技台列背面側に送り出し可能」であるとの認定は誤りと認められる。

なお、原告は、第3図並びに第4図において、金庫241を貸機内部(下部)に設けて、取り込んだ紙幣を下部金庫に落し込むことの図解がなされていると主張するが、同図からは、金庫が貸機内部(下部)にあるとも断定はできない。

したがって、引用例2記載の発明における「特定位置」は貸機内部(下部)であるか、遊技台列背面側であるかは、開示されていないものである。

しかしながら、上記のとおり、引用例2には「複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に、偏平体としての紙幣を前記遊技台列前面側から受け入れてその紙面が上下方向に沿う姿勢で取り込み用ローラにより挟持して送り出し可能な遊技用貸機が設けられており、取り込まれた紙幣は、特定位置まで搬送されている」構成が開示されているのであって、かかる構成を引用例1記載の発明の「遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機の各々から送り出される硬貨を受け取ってその平面が上下方向に沿う姿勢で転動させ、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置」に、適用しようとするときには、取り込まれた紙幣を「遊技台列背面側に送り出し可能」とすることは当然の設計変更にすぎないものであるから、審決の上記認定の誤りは、審決の相違点1についての判断に影響を及ぼすものではないことは明らかである。

〈3〉  引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に組み込むことの容易性の判断について

前記〈1〉のとおりの引用例1の記載及び本願明細書の特許請求の範囲の記載によれば、引用例1記載の発明の自動玉売機も本願発明の遊技用貸機も搬送される対象こそ硬貨と偏平体とで差異があるものの、「複数の遊技台を横方向に並設して遊技台列が構成され、前記複数の遊技台の隣接間のうちの複数の特定箇所に」、(硬貨又は偏平体を)「前記遊技台列前面側から受け入れてその板面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列背面側に送り出し可能な遊技用貸機が設けられているとともに、前記遊技台列の背面側に、前記遊技用貸機の各々から送り出される」(硬貨又は偏平体を)「受け取ってその平面が上下方向に沿う姿勢で搬送し、前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置」である点で一致するものと認められ、両者は、硬貨又は偏平体の投入によって遊技用の玉を交付しかっ投入された硬貨又は偏平体を特定の位置へ搬送する搬送装置を備えた点で一致するものであって、技術的に極めて近い関係にあるものと認められる。したがって、本願発明のように、紙幣のような偏平体についても硬貨と同じように遊技台列の背面側で遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送しようとすれば、引用例1記載の発明の合流搬送の構成に、引用例2記載の紙幣を用いた自動玉貸機の構成を適用しようとするのは当業者にとって容易であると認められる。

したがって、審決の引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み込むことが容易であるとの判断に誤りはない。

なお、原告は、引用例2には、「特定位置まで搬送(合流搬送)する」構成が開示されていないのであるから、紙幣回収手段についての開示のない引用例1記載の硬貨専用の台間玉貸機に引用例2記載の貸機内部保留(金庫)型の紙幣回収手段を組み込んでも、台間玉貸機の内部(下部)に設けた金庫に、遊技台列前面側から受け入れた硬貨、紙幣を保留する硬貨、紙幣併用型の台間玉貸機の構成になるにすぎないと主張するが、たしかに、前記のとおり、引用例2記載の発明において、「特定位置」は貸機内部(下部)であるか、遊技台列背面側であるかは開示されておらず、また、「合流」搬送する構成が開示されていないけれども、引用例1記載の発明には前記〈1〉のとおり、遊技台列の背面側で遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する構成が開示されているので、引用例1記載の発明を、紙幣に適用可能とするために、引用例2記載の発明の紙幣を取り込こむ構成を、引用例1記載の発明の上記のような構成に組み込むことは当業者であれば容易であるから、原告の上記主張は失当である。

さらに、原告は、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み込んでも、本願発明のような作用効果を奏するものではないと主張する。

しかしながら、前記〈1〉のとおりの引用例1の記載によれば、引用例1記載の発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の項に記載された「硬貨の投入で作動する自動玉貸機をパチンコ遊技台間に設け、パチンコ遊技台列背面側に自動玉貸機から落下排出された硬貨を受け止めてパチンコ遊技台列一端側に搬送する搬送装置を設けて、投入硬貨を能率良く回収できるようにした」(甲第2号証の1、2欄10行ないし15行)従来の技術と実質的に同じであると認められるところ、同項の、「そこで、従来の硬貨の投入で作動する自動玉貸機をパチンコ遊技台間に設けた遊技設備と同じように、遊技台前面側から受け入れた紙幣を遊技台列背面側に送り出す遊技用貸機を遊技台間に設け、各遊技用貸機から送り出されてきた紙幣を遊技台列一端側の回収位置まで合流搬送する搬送装置を遊技台列の背面側に設けて、紙幣を遊技者の邪魔にならず、しかも能率良く回収できるようにすることが望まれる」(同3欄13行ないし21行)の記載から明らかなように、本願発明は、従来の硬貨の投入で作動する自動玉貸機の奏する作用効果を紙幣のような偏平体を対象とする自動玉貸機においても達成することを課題とするものであるから、かかる課題を達成するという本願発明の作用効果は、引用例1記載の発明に、引用例2記載の取り込まれた紙幣を搬送する技術を組み込んだ構成から、当然予測できるものである。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

〈4〉  引用例3記載の発明を引用例1記載の発明に組み込むことの容易性の判断について

前記のとおり、審決摘示の引用例3の記載については当事者間に争いがない。

原告は、引用例3記載の発明は、「マイクロフィルムあるいはその他の情報カード類のベルト式搬送装置に関する」ものであって、本願発明のような遊技用台間玉貸機の紙幣挟持搬送装置への転用を示唆する記載はないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み込んだ硬貨、紙幣併用型の台間玉貸機に引用例3記載の発明を組み込むことは当業者にとって容易に想到することではないと主張する。

しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の項の、「紙幣が硬貨に比べて大形でかつ薄いものであり、しかも軽くて可撓性があるという特性から硬貨のようには取扱にくい」(甲第2号証の1、2欄18行ないし21行)、「本発明が対象とする偏平体aとしては、紙幣の他に、紙製、プラスチックス製カード等の各種のカードを挙げることができる。」(甲第2号証の1、10欄11行ないし13行)との記載から、引用例3記載の発明の対象となるカード類が本願発明の対象とする偏平体から除外されるものではないことは明らかである。

そして、引用例3記載のカード類の搬送装置は、カード類を扱う広範な分野にそのまま応用可能であることはその構成より明らかであるから、引用例1記載の発明において、硬貨に代えて偏平体を搬送しようとすれば、当業者であれば、硬貨の搬送に適した転動による搬送装置を、偏平体の搬送に適合した引用例3記載のカード類の搬送装置で置き換えることは容易であると認められる。

なお、原告の、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み込むと、硬貨、紙幣併用型の台間玉貸機の構成になるとの主張の理由のないことは、前記〈3〉で判示したとおりである。

〈5〉  以上のとおり、審決の、引用例2及び3記載の各発明を引用例1記載の発明に組み込むことに困難はなく、当業者にとって容易になし得たものとの判断に誤りはない。

(3)  取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について

前記のとおり、審決摘示の引用例4の記載については当事者間に争いがない。

原告は、引用例1には、硬貨の転がり特性を利用した「台間玉貸機における硬貨の回収手段」が開示されているにとどまるものであって、搬送装置については開示されていないのであるから、紙幣搬送装置に関する引用例4記載の発明を引用例1記載の発明に適用することは当業者が容易になし得るものではないと主張する。

しかしながら、前記(2)のとおり、引用例1記載の発明に引用例2及び3記載の各発明を適用して偏平体の搬送装置を構成するのは、当業者に容易になし得ることであるところ、引用例4記載の発明の「紙幣の通過を検出する検出手段(8a~8d)を設け、この検出手段による検出結果に基づいて当該検出手段が設けられている搬送装置での紙幣の搬送状態を表示する表示部」の構成を、引用例1記載の発明に、引用例2及び3記載の各発明とともに適用するについて困難性は何ら認められず、原告の上記主張は理由がない。

(4)  取消事由4(格別の作用効果の看過)について

〈1〉  原告主張の本願発明の作用(a)は、遊技台列背面側に配置した搬送路レイアウトによるものであって、搬送手段如何によらないものであるから、同じく遊技台列背面側に搬送路を配置した引用例1記載の発明のレイアウトにおいても奏する作用である。

〈2〉  同(b)は、偏平体をその板面が上下方向に沿う姿勢で玉貸機から搬送路に至るまで一貫して取り扱うという搬送の仕方による作用であるところ、引用例1記載の発明の特定位置まで合流搬送する構成に、引用例2記載の発明の偏平体としての紙幣を上下方向に沿う姿勢で投入して搬送する構成及び引用例3記載の発明の挟持搬送する構成を組み合せることによって当然予測される作用の範囲を出ない。

〈3〉  同(c)は、玉貸機及び搬送装置の設置スペース上の利点であるが、それぞれ引用例2記載の発明の偏平体としての紙幣を上下方向に沿う姿勢で投入して搬送する構成及び引用例3記載の挟持搬送する構成を組み合せることによって当然予測される作用の範囲を出ない。

〈4〉  同(d)は、引用例3記載の発明に示唆されるとおり、搬送ユニット固有の作用であって、本願発明における搬送ユニット独自のものとはいえない。

〈5〉  同(e)は、引用例4記載の発明に示唆されるところと、格別の差異はない。

〈6〉  同(f)は、引用例1記載の発明に組み合わされるべき引用例3記載の発明の上下方向に挟持搬送する構成の奏する作用と差異はない。

以上のとおり、上記作用(a)ないし(f)は、いずれも引用例1ないし4記載の各発明において、既に知られているか又は各発明を組み合わせた構成から当然予測できる範囲を出るものではなく、これらを格別なものとすることはできず、審決の格別顕著な効果も認められないとの判断に誤りはない。

(5)  以上のとおり、原告主張の審決の取消事由はいずれも理由がなく、審決には原告主張の違法事由はない。

4  よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

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別紙図面2

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別紙図面3

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別紙図面4

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別紙図面5

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